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クリエイターズ・ファイル

大江山と由良川
大江山と由良川

中丹地域 福知山・舞鶴大江

新井厚子あらい あつこ

昔からその雄大な流れによって人や物資の移動を支えてきた由良川。どこからか、異文化を持ち込み、その地に移ってきた異形のもの=鬼が住み着いたとの伝説が残る大江山。福知山の大江地域には、移動や移住に関する物語が溢れている。その場所で生まれ育ち、長い海外生活を経てまた大江へと戻ってきたアーティストの新井厚子さんも移動を繰り返してきている。

美術大学への進学を目指して地元を離れ大阪へ。デザイン学校でクラフックデザインを学び東京へ。広告代理店に就職するもアートの世界に可能性を求め、赤瀬川原平などが教えていた美学校で石版画を学ぶ。小劇場の活動に足を踏み入れつつも、東京での暮らしに疑問を持ち、さらに遠くの世界を見たいとスペイン、モロッコへと旅行します。当時、スペインは1992年バルセロナオリンピック開催の直前。この旅で、東京では感じることのなかった人々の生きることに対して貪欲な感覚や、これから街が変わっていくという雰囲気に魅了された新井さんは、帰国後にスペイン語の勉強を始め、スペインへと移住する準備を進めます。

新井さんの自宅にある古い地球儀

そして、1994年に新井さんは日本を離れスペインへと移動します。バルセロナのマッサナ美術学校に入学、それ以降、この地でアーティストとしての生活が始まります。日本からの移動、生活環境の違いは制作方法にも多いに影響を与えました。バルセロナで、光の見えかた、色や影の感じ方の違いから、光と影をつかった作品の制作。また、移動を繰り返してきた自分が立っている場所、その歴史や記憶について客観的に捉えること、都市開発がすすむバルセロナの古い裏路地を記録することの重要性から原寸大の拓本(フロッタージュ)による作品の制作。そしてビデオを用いた作品など、メディア、主題、環境があたえる変化は多岐にわたります。

《La calle(通り)》 バルセロナ旧市街の拓本作品 copyright©新井厚子

その後、バルセロナと拠点としつつも、移動することで見えてくるものが異なることの体験から、カナダ、アメリカ、フィンランド、ルクセンブルグ、香港、日本などさまざまな場所で機会あるごとにアーティスト・イン・レジデンスプログラムに参加するようになります。始めてレジデンスはカナダのケベック。参加した際、もともとバルセロナで続けていた拓本の実践を目的に準備万端でケベックへと行ったそうなのですが、なかなかプランに見合う場所が見つけられず、ここで拓本をやっても意味がないと感じ、全く検討もしていなかった映像制作をおこなったとのことです。自分の頭の中だけで考えていたプランではなく、移動して初めてみえてくるもの。その場所や環境が与えてくれることから考え始めること。これからどのようにも変わることができる可能性を追い求めることが作品制作に幅を与えてくる。その体験が、ある場所との関係性をむすぶ、場所特有のプロジェクトをおこなうきっかけとなったと語ってくれました。

《When in Hong Kong, do as the Hong Kongers do!? / 郷に入れば郷に従え 香港版》 
香港でのプロジェクト copyright©新井厚子

20年にわたるバルセロナ、またレジデンスなどでの海外生活をへて、段階的に拠点を日本へと移しつつあった新井さんは、2014年ごろに福知山へとUターンしてきます。ながく離れていた地元は、長い海外生活を経てみてみると、以前にはなかった文化圏が形成されていて、離れていたからこそ感じるたくさんの可能性が溢れているようでわくわくしたとのことです。これもまた新井さんにとっては、作品制作のための素材となりうる移動と記憶や歴史にまつわる物語のひとつかもしれません。

現在、新井さんは自身の作品制作や、福知山での作品制作やワークショップの企画などの他に、方言や土地に残る習慣などに興味を持ち「大江昔話を語る会」に加わり、昔話を土地の言葉で伝える活動に参加しています。土地の文化や言葉をだいじにする、そこにはバルセロナ人々、皆が、自分たちの文化(=言葉)には力宿っていることを信じていること、その文化を残すことへの誇りを感じたことにも影響を受けているとのことです。

「大江昔話を語る会」 写真提供:新井厚子

日本にもどってきて気がついたのが、海外の様々なところを動き回ってこれたのは、自分の中に動かない軸としての福知山の大江があったからだと思う。現在その福知山を拠点に活動する中で、その経験から、外の目と内の目でもって、ここでできることがあると思う。と新井さんは教えてくれました。
長い海外での生活、レジデンスやプロジェクトでの移動、そして戻ってきた日本でのプロジェクト。新井さんは移動することで感じられるなにか新しいことが起こる可能性を感じて、動きつづけています。

取材日:2020年7月9日
取材、文章:朝重龍太 京都府地域アートマネージャー(中丹地域担当)

新井厚子

新井厚子

美術家。京都府福知山市大江町出身。 グラフィックデザイン、版画を学んだ後、スペインに渡西しマッサナ美術学校で彫刻、空間芸術を学ぶ。バルセロナをベースに欧米日本各地で地域の特性から発想をえた作品や参加型作品を多く制作。2015年ごろ、地元に拠点を移し活動。 スペインのタラゴナ近代美術館、バスク写真美術館などで個展、越後妻有大地の芸術祭、国際芸術センター青森、スペインのホスピタレ美術館などでのグループ展に参加。野村国際文化助成、ボティン財団、ラモンジュル文化財団などで芸術家助成を受ける。またドイツ、フィンランド、カナダ、アメリカ、日本などで招聘作家としてアーティスト・イン・レジデンスに多数参加。

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