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クリエイターズ・ファイル

作品の下絵に使用される版
作品の下絵に使用される版

山城地域 大山崎町

黒宮菜菜くろみや なな

 壁面をそのままくり抜いてきたような独特の下地に、水底から浮かびあがるように佇む絵。黒宮菜菜さんは、近現代の小説や古代の物語から着想を得て、それをモチーフに幻のような独特の遠近感を持った絵画作品を制作しています。黒宮さんは東京都出身、京都造形芸術大学(当時)を経て、京都市立芸術大学博士課程を修了。現在は京都市西京区に在住。博士課程在籍時に結婚され、ご家族と同居されているため「自宅とアトリエをいっしょにするのはちょっと難しくて」とのことで、制作はもっぱら外にかまえたアトリエで進めてきました。

黒宮菜菜さん

 2018年からは「むこうスタジオ」(向日市)で制作。「西京区の自宅に近いので、スタジオに空きが出るのを待ってたんです」とのこと。しかし、より大きな作品を安定して制作できる場所が必要になってきた頃、むこうスタジオの建物取り壊しが決まり、これを機に新たな拠点を探し始めました。そして巡り会ったのが、この大山崎町の物件。2020年4月から新たに個人アトリエ「チャヤマエstudio」を構え、制作しています。
 このスタジオに出会うまで、自宅周辺から乙訓地域を中心に、さまざまな物件を見て回ったそうです。物件探しのポイントを聞いてみると、まずは絵画が寝かせて描ける床面積、絵を搬出できる間口の広さ、などなど。
 そして外せないのが「自宅から電動自転車で通えること」。自動車免許を持っていない黒宮さんは、よりよい環境を求めて、自転車で活動範囲を徐々に広げていったとか。

「チャヤマエstudio」と、愛用の電動自転車。

 そんな中、この大山崎の物件を選んだ最後の決め手は、スタジオの環境でした。目の前の土手と、すぐそばを流れる桂川。「外に目を移したとき、緑があったほうがヘルシーだなと思って。(予算的に)ちょっと頑張ってこっちにしました」。こうした着眼点からも、黒宮さんの気取らなさと健康的なエネルギーを垣間見るようです。
 「道路に面しているので音が気にならなくて、いいですね。以前のスタジオでは隣の家がすごく近くて、音が出る作業で気を使ったので。入居の際に、隣のバイク屋さんとかに挨拶したんですけど、『(作業がうるさいのは)お互い様なんで(笑)』って」。

国道に面した「チャヤマエstudio」

 「やっぱり、自分は都会で暮らしてきた期間が長かったので、あまりにも大自然の中に身を置くのは難しいかも」と黒宮さん。意外な理由もあります。「赤帽(運送業者)は重要ですね。自分で作品を運べないので、地域にしっかり運んでもらえる業者さんがいるかどうか」。考えてみれば当然ですが、こうした現実的な条件も制作を続けるうえで重要です。現在、京都や大阪の懇意のギャラリーとの仕事が多い黒宮さんには、交通のアクセスが良く、景観に恵まれた大山崎は、拠点としてちょうどよかったのかもしれません。
 大山崎の印象を聞いてみると、「大山崎山荘美術館は学生の頃よく行ってましたね。それもあって、地域的に美術を受け入れてくれる土壌がある、ってイメージが強いです。アーティスト仲間からは、大山崎にアトリエ構えました、っていうと『いいね!』ってよく言われました」。

「スタジオオープンのパーティーもしたかったんですけど…」と語る黒宮さん。新型コロナウイルスの影響もあって、まだあまり人を招いたりはできていないとのこと。

 「作家以外の人に、『絵を描いてます』と言うと『すごい!』みたいな反応をされることが多いんですけど、私からすると会社勤めをされて、毎月コンスタントにお金を稼いでいる方のほうが、よっぽどすごいんです。なので、絵を生業にしているからといって特別なわけではなくて、結構……いっしょですよ、みたいに思ったり」
 「むこうスタジオで制作していたときは、『作家ってなにしている人かわかんないけど、ふつうにそこにいる』みたいな感じで地域に受け入れてもらっていて。近所の方にちょこちょこお菓子をもらったり、すごくかわいがってもらいました。新型コロナが落ち着いてきたら、そんなふうにご近所との関係も持てればいいな、と思っています」。
 アーティストも、他の仕事をする人も、「そこに住む人」としてはそんなに変わらないんじゃないか。黒宮さんの言葉の端々からは、人や環境に対する穏やかでフラットな目線が感じ取れます。

額縁と一体化した独特の下地の作り方について説明する黒宮さん

 黒宮さんに、制作場所と作品の関係について伺ってみると、2019年に大原美術館(岡山県倉敷市)のレジデンス事業「ARKO2019」へ招聘された際に感じるところがあったのだとか。「金田一耕助」シリーズ等で有名な横溝正史が吉備郡岡田村(今の倉敷市真備町)に疎開していたことから、倉敷市内の実際の滞在先などを訪れながら作品を創作していったそうです。「今までは物語を読んで頭に浮かんでくるイメージを作品にしてきたけど、実際の場所をリサーチすることで、土地の雰囲気や時代背景などが自分の中でもストンと落ちる感じがあって、よかったですね」と語ってくれました。
 第21回 岡本太郎現代芸術賞入賞(2018)、VOCA展2020佳作賞受賞(2020)など、ますます注目を集める黒宮さんですが、近年は「古事記」をモチーフに制作しています。
 「『古事記』には『青人草』という言葉がでてきて、それは、青々とした草である人をあらわす言葉なのですが、その言葉を知ったときに『あ、日本における人の起源って草だったのか、と。そこらじゅうにムクムクと生え出てきて、ほっといても自然と育っていくようなものだと考えられていたんだ』って、けっこうびっくりして。そういう考え方が、すごく健康的だなって感じたんです。西洋画を学んできたからか、自分はどうしても近代西洋的な人間観で世界を捉えてしまいがちだけど、『古事記』の言葉から、大きな発見があります」。

実は、この作品は絵の出方がイメージと少し違って「失敗した」そうですが、まだ補修していけそうなのと、「次の作品の参考に」と残しているそうです。黒宮さんの研究心が感じられます

 黒宮さんの作品の特徴のひとつに、下地と絵が一体化した画面があります。油絵具に画溶液(油絵具の希釈材)を注ぐことで、描写したイメージが溶けたり、滲んだり、流れていったりする流動性を研究をしながら、その性質を利用して、文学作品等に封じ込まれた人や風景を描き出していきます。下地、絵具、画溶液、物語、図像といった要素が分け目なくまざりあう黒宮さんの作品は、まるで物語の登場人物が、混沌の中から偶然に絵の中に訪れたかのような、不思議な質感を持っています。
 「物語が支持体の中にやってきて、一時とどまって、絵になる。わたしは絵画の支持体を『うつわ(器)』であると考えているんですけど、そういう感覚が、最近色々な意味で表現とより繋がってきて、ますます腑に落ちてきています。」
 旺盛な研究心を持ちながら、あくまで自然体で、制作と生活を見据える黒宮さん。このスタジオで、今後も場所や物語をうつす様々な絵画をあらわしてくれることでしょう。







取材日:2021年2月15日
取材、文章:谷竜一 京都府地域アートマネージャー(山城地域担当)

黒宮菜菜

黒宮菜菜

1980年東京都生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程 美術専攻研究領域(油画)修了。博士号(美術)取得。人体を主なモチーフとした物語性の豊かな油彩画や染料を描画材に独特なマチエールを有した作品を手がけている。2017年に京都市芸術新人賞を受賞、18年に第21回岡本太郎現代芸術賞に入選。主な個展に「ARKO2019 黒宮菜菜」(大原美術館, 岡山, 2019)、主なグループ展に「VOCA展2020 現代美術の展望 -新しい平面の作家たち- 」(上野の森美術館, 東京, 佳作賞受賞)など

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