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京田辺のご自宅の、レッスン室でお話を伺いました。
京田辺のご自宅の、レッスン室でお話を伺いました。

山城地域 京田辺市

竿下和美さおした かずみ

2021年3月22日、第一回京田辺市音楽コンクール本選が開催されました。
京田辺市発の全国公募コンクール。北は福井から南は香川まで、予選には177名のピアニストが集まり、未就学児から若手プロまでの各部門に分かれて競い合いました。
審査委員長に田村響氏、本戦審査員に片山優陽、芹澤佳司の両氏。いずれも世界的な評価のあるピアニストです。そして、ソロの各部門の金賞受賞者には副賞として、京田辺市音楽コンクール祝祭管弦楽団との共演が約束されています。京田辺市ではこれまでにない試みであり、関西圏でも貴重なコンテスタントの実践の機会となりました。

このコンクールを開催まで牽引されてきたのが、NPO法人京田辺音楽家協会理事長で、ピアニストの竿下和美さん。
開催の手応えを伺ってみると、初めてのコンクールとしてはかなりのレベルであったことに加え、「京田辺市の各教室の先生方のネットワークづくりのきっかけとなったこと」を成果として挙げてくださいました。
京田辺市は音楽専門ホールのない街です。後進の指導に熱心な先生もいらっしゃるものの、他都市に存在するような、専門団体が主催する研究会はなく、情報交換の機会に乏しい環境です。まだ若いピアニストたちが、コンクールで実力を出し切る部分を指導するのは、先生個人の経験だけでは難しい。そんな中でも、このようなコンクールで先生方が情報交換の機会を持つことで、京田辺全体の音楽の指導環境が、より豊かになっていくのかもしれません。

「第1回京田辺音楽コンクール」授賞式のようす。若い演奏家さんも、誇らしそうです。
(写真提供:NPO法人京田辺音楽家協会)

コンクールに課題曲はなく、コンテスタントは制限時間内の曲を自ら選曲し演奏します。
新型コロナウィルスの影響もあって、都市部をはじめ他の地域のコンクールなどの中止が相次ぐなか、そこでの課題曲なども演奏できるように、あるいは音大受験を控えた方の試験前の実演経験の場に。このコンクールだけでなく、日頃研鑚の成果を発揮できるようにと意図してのことです。
また、現在の新型コロナウィルスの感染拡大状況を考慮し、対策を徹底。観客の密集を避けるため、会場変更をするとともに、観客収容人数を大きく絞って実施されました。
次代を担うみなさんにとって必要な機会をという、主催者のプレイヤー目線の配慮が感じられます。

こうした状況に対応するもうひとつの取組として、協会が主体となってのライブ配信技術の習熟があります。コンサートなどの事業の積極的なオンライン配信を実践し、専門業者へ発注せずとも、十分に視聴に耐えうる配信ができるようになってきました。
京田辺音楽家協会は、2020年に体制を一新し、NPO法人を設立。事業の見直しを行い、これからいよいよ活動を活発化させていこうとした矢先に、コロナ禍に見舞われました。
いきなり状況が一変した現状で、映像等の専門業者に頼むこともできたのですが、「配信等、自分たちだけでも事業を実施できる能力を持たないと」と問題意識を高く持ち、日々改善を続けてきました。

竿下和美さん。気さくでエネルギーに溢れていて、お話しているとこちらも元気が湧いてきます。

理事長である竿下さん自身も、コロナ禍において、音楽との付き合い方に変化を感じたそうです。特に、「現場に行かなくても演奏を楽しむことができる」ことで、たとえば、コンクールなどの機会においては、現場に行けないお年寄りや遠方の方が、配信を通じてご家族や知人の演奏を楽しめてありがたかったという声もあったそうです。
とはいうものの、演奏家としては「やっぱり生じゃないと!」という気持ちもあり、団体として推進する立場と、プレイヤーとしての実感のあいだの葛藤もあるのだとか。

ピアニストとして、演奏活動や指導はもちろん、サックスとのユニット「ティーモ」としても活発に活動する竿下さん。小さい頃から、「ピアノはいくら弾いていても楽しかった」そうです。
ピアニストの道を意識したのは小学校一年のとき。とあるコンサートを聞きに行った際に、感動して大泣き! こんなに感情を揺さぶれるなんて「音楽ってすごいな」と実感し、「音楽で生きていきたい!」と決意しました。それからは、暇さえあればずっとピアノを弾いていたのだとか。
京都市立芸術大学を卒業後、大阪を拠点に活動していましたが、ご家族の転職や、学校入学のご都合が重なり、導かれるように京田辺市へ。徐々に高校、大学の先輩のご縁がつながり、活動を広げていきます。そして大先輩であった先代会長から引き継ぎ、京田辺市音楽協会の理事長となりました。

「音楽の広場」開催のようす。(写真提供:NPO法人京田辺音楽家協会)

NPOの活動は、コンテストや演奏会の開催にとどまりません。定期的に開催している「大人の音楽広場」「親子の音楽広場」では、シニア世代や親子連れの方が、気軽に音楽を楽しめる機会を保っており、新型コロナウィルスの影響で閉じこもってしまいがちな状況のなか、市民の交流の場として重宝されています。
京田辺はイベント等の数が決して多くないなか、移住者や関係を広げたい方なども、「音楽」の機会であれば、好きなお母さん同士つながり、打ち解けるきっかけになります。
「親子の音楽広場」は子どもが主体ですが、子どもの経験の場であると同時に、「音楽」というキーワードで集まった保護者の方にとっても、新しい関係づくりの場になっているのです。

京田辺はアマチュア音楽がさかんな街。部活も吹奏楽が人気で、あたりまえにピアノを習ったりしています。こうした状況について、竿下さんは「音楽を学べる環境は、親からのプレゼント」と表現してくださいました。「大人になってから新しく楽器を習うのは大変。子どものうちは、「難しい」がなく、いろんなことを受け入れてくれるんです」。一度音楽に関わった経験があると、必ずしもずっと続けていなくても、音楽を通じて人と繋がったり、また音楽の場に戻ってきたりすることができる。そう考えると、ただ音楽を演奏したり聴いたりする以上の広がりが、社会のなかの「音楽文化」としてみえてきます。

竿下さんのコンサートの様子。コンサートではリクエストの多いショパンをよく演奏されるそうですが、ラヴェルの研究がご専門だそうです。(写真提供:NPO法人京田辺音楽家協会)

市民目線で発展してきた京田辺の音楽シーンですが、課題もあります。
アマチュアの演奏活動が盛んであるがゆえか、少額でも入場料をいただくことに、抵抗感がある方もいらっしゃるそうです。無料で演奏を聞くことで、一時的に得をしたと感じられても、対価を得られない状況で音楽家が生きていくことは難しい。やがて街に音楽家がいられなくなってしまい、長い目で見ると、質の高い音楽を身近に感じることができなくなってしまいます。
そんな中で、竿下さんは、市民が芸術を支える環境づくりの必要性を感じています。プロとして対価をもらって質の高い演奏を提供することと、市民が気軽に楽しめる場をつくることの両立が、これからの目標です。

コロナ禍ゆえの印象的な出来事も教えて下さいました。1月に市内学生のオンラインコンサートのサポートをした際のことです。課外活動が制限され、多くの学生が学外活動を制限されている学生たち。部員のなかには、「はじめて本番で演奏した」という学生の声もありました。
演奏機会が限られる中で、プロフェッショナルの演奏家の知見が、学生やアマチュアの団体を助けています。

2021年度は「音楽の日2021」と銘打ち、コンサートをはじめ多彩なイベントを計画中です。
8月には、コンクール受賞者と「京田辺市に管弦楽団を」という初代理事長の宿願を引き継ぎ結団した「京田辺市音楽コンクール祝祭管弦楽団」とのコンサートも予定しています。
生の音楽にふれる機会を求める市民の応援も集まり、少しずつ賛助会員も増えているそうで、これからますます、京田辺の音楽シーンは盛り上がっていくことでしょう。

取材日:2021年3月25日
取材・文責:谷竜一 京都府地域アートマネージャー(山城地域担当)

竿下和美

竿下和美

大阪音楽大学付属音楽学園、京都市立堀川音楽高校、京都市立芸術大学音楽学部ピアノ専修卒業。在学中は定期演奏会、学外コンサートなどに選抜出演。卒業後国内、海外各地でマスタークラスに参加。ピアノ教育連盟オーディション全国大会出場、堺ピアノコンクール、フランス音楽コンクール奨励賞、京都ピアノコンクール第2位、長江杯国際音楽コンクール第1位など受賞。泉の森ホール、秋篠音楽堂オーデイションに合格。2005年、当時在住していた泉大津市より文化に貢献するピアニストとして文化賞を受賞。 ソロのほか、サックス&ピアノユニット「ティーモ」としても活動。2017年には初レコーディングアルバム「Blowing」発表。また合唱ピアニストとしても活躍中で、4団体のピアニスト等を務めている。また指導者として、グレンツエンピアノコンクール、日本クラシック音楽コンクール優秀指導者賞を受賞するなど、後進の育成にも力を注いでいる。 平安女学院大学非常勤講師。日本クラシック音楽コンクール審査員。京都市立芸術大学真声会京都支部役員、京田辺音楽家協会理事長。
https://saoshitapiano.jimdofree.com/
NPO法人京田辺音楽家協会
https://www.kyotanabe-musicians.org/

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