コロナ禍でのホール
2020年にはいり、中国武漢にて発生したと言われる新型コロナウィルス(COVID-19)の世界的流行、そして日本においても4月に緊急自体宣言が政府によって発令されるなど、見えないウィルスの猛威は、人々の生活、経済活動、あらゆるものごとに計り知れない影響を与えている。それは、文化芸術分野においても例外ではなく、そのなかでも、音楽や演劇、映画など、いわゆる劇場(ホール)を公開の場として使用することをある種前提としており、多数の観客を1箇所にあつめ、上演する活動への被害は甚大で、一時期、活動の停止・中止を余儀なくされた。5月にはいり、緊急事態宣言の解除、また広義のイベント実施にたいして規制の緩和はなされたとはいえ、新型コロナウィルスの脅威は消滅したわけではなく、全てのホールはコロナ禍での対応を迫られている。
公民を問わず、ホールを運営する団体、企業にとっては非常事態ともいえるなかで、現在の実情、新型コロナ対策への取り組み、また今後の展望について3者3様の登壇者による紹介、討論の場が設けられた。
本イベントは、もともと、京都府山城地域を主に活動拠点とする各ホールが取り組んでいる活動や運営についての情報の共有、またホール同士のネットワークづくりをおこなうことを目的として昨年度に企画、実施をめざしていたものであった。ただし、上記のとおり、コロナ禍における状況を鑑みて、本イベント1回目の開催趣旨、議題についてコロナ禍でのホールについて話し合うことへと変更がなされたことは付け加えておきたい。
また、本イベントの実施にあたっても、参加者の事前申し込みによる把握、また利用席の制限をもうけ客席の間隔をあける。マスク着用の徹底。入場の際の体温検査、追跡アプリ導入の案内と推奨といった徹底した新型コロナ対策がとられていたことも挙げておく。

ホール運営の実情 それぞれの違いと共通するものごと
主催者による挨拶、また本イベントの開催趣旨についての説明がなされた後、今回登壇者として紹介された3者によるホール運営の実情、また各取り組みについての紹介が行われた。新型コロナウィルスの流行による影響はどこも大きく、コロナ禍での事業の中止、延期を経たのち、公共の施設である宇治文化センター、株式会社けいはんなが運営するけいはんなホール、一般社団法人が運営するTHEATRE E9の公民問わず、どの団体も、このコロナ禍における対策は十全におこなったうえでようやく少人数、限定的な公演・上映などの実施がはじめれるといった状況であった。
各ホールの取り組みにおいて、特筆すべき点としては、宇治文化ホールまたけいはんはホールが、近年の活動において近隣住民や一般参加者を募集し、ともに演目をつくりあげる、作品制作ワークショップをふくむ参加型事業への比重が大きくなっていることであった。自主事業、貸し館としての大規模、中規模を問わず旧来の上演形式での運営のみならず、ホールが地域に場を開く、地域へと自らが出て行く活動への関心の高まりが要因のひとつとして挙げられる。
また、従来の上演形式にたいする観客、利用客数の減少に対応することへの対応。利用者層の拡大、地域交流の場を提供することでうまれる賑わいの演出を目的とした新たな事業形態・運営戦略のひとつとしての変化がここにはみてとれる。
ただし、これら参加型事業については、このコロナ禍での事業延期や中止に伴い、今後事業の方向性についてどのようにするべきかなどの課題が挙げられていた。
京都市内に位置するTHEATER E9は、運営、経営の面においては劇場収入のみに限定するのではなく、家賃収入、喫茶店運営、また企業スポンサー、個人サポーターの獲得と多角的に収入を得るなどの工夫がみられた。これは、コロナ禍においてより明瞭となったことではあるが、もともと上演のみによって、経済的に安定した収入、また安定した観客(参加者・顧客)を得ることが難しいホール運営において、安定した運営にむけてのひとつの有効な手段であることが述べられた。この運営形態への柔軟さは、事業においても顕著であり、コロナ禍においても、劇場内無観客の演目の上演、観客1組に限定した演目の実施など状況を鑑みて、アーティスト・演者・スタッフとの協働において計画、実行されたさまざま取り組みがあった。ホールでの実演、運営、経営の面においての新たな取り組みとしての知恵と工夫が共有されたのではないだろうか。

参加のしかた
会の後半は、前半の3者の活動紹介をうけて、それぞれの課題の共有や今後の運営ついての議論が行われた。主な議題となったのは、参加事業にたいして、参加者の集め方、どのようにホールの事業に市民、地域住民に関わってもらうのか、またホールとしてどのように関わりをもつのかについてであった。事業者がより広範な参加者を、地域との交流をもとめて場を開いたとしても、ただ開くだけでは人も関心も集めることは難しい。それには、事業設計、広報、くわえて地域からのホールへの興味を集めることが重要である。また、あくまでホールを中心とした近隣地域での展開が望ましいため、たとえば東京やそれに比類する大都市における活動は、参考にはなりえても同じような成果をあげることは難しい。ホール側が参加を求めても、参加者の増加にはまだまだ課題がおおい。また、宇治文化ホールを例とするならば、同等の公が運営するホールでは、事業者が専門家ないことも多く、参加型事業に関する知識、経験、専門的スキルの蓄積やノウハウの確立も難しいことがあげられた。
この課題への解決の一助となるべく、蔭山氏から提言されたのは、参加対象とする地域や人の範囲を絞ることへの考え方であった。
ホールを中心とした案内の届く範囲、またホールに来られる人々の距離感を把握すること、その地域の人々が安定して何度も訪れることが可能な事業・空間を設計すること。そのなかで、地域との交流を深めていくこと。そして、地域に愛されるホールとなること。これら、地域との関係性の構築のなかでこそ、事業設計、地域でのホール運営を進めるための判断が可能になるだろうとのことであった。

大橋 正明[公益財団法人宇治市文化センター事務局長](写真 左)
参加者の反応
会の最後には、参加者から3者への質疑、応答がおこなわれた。そのなかでもひとり、演者プレイヤーからホール運営者になげらえた質問には、このコロナ禍の状況が直接的に反映されていたものだと思われる。質問者によると、これまでホールを主な活動の場としていたプレイヤーは、演奏・上演を企画し実現したとしても、観客の減少、また使用可能なホールの減少、使用料の据え置きなどによって、現実的に収入が減少する活動の場がなくなるなどの影響がでている。この現状では、ホールを使用するのではなく、自分たちでやりたいことだけを映像メディアなどを使うほうへと移行するのではないか。その中でホール側はどのような対策をとるのか聞きたいというものであった。ホール側の応答としてあげられたのは、ホール側とプレイヤー側にていかにリスクを分担できるのか、そのなかで、文化を生み出す場、また交流の場、プレイヤーが活躍できる場を今、なんとか維持していくことがあげられた。
おそらく、この問題は、このコロナ禍がきっかけとなったとはいえ、本来、ホール側、演者側、また観客としての参加者それぞれが抱えている問題であると思われる。
人が集まり、文化を共有することを目的につくられたホールおいて、人が集まらない・集められない状況のなか、地域とどのように協働するのか、地域に場を開くこととはどういうことであるのか、課題の共有が運営側のみならず参加者にとっても行問われた会となったのではないだろうか。
当日の会の様子は、下記のリンクにて記録が公開されています。
https://www.youtube.com/watch?v=6KAjkrjyvPM
