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EVENT REPORTSイベントレポート

山城地域

令和2年度 京都府「文化を未来に伝える次世代育み事業」(地域文化施設プロジェクト) 『もうひとつの城陽コーラルフェスタ ~共存…side-by-side~』

日 時
令和2年12月13日(日)13:30開場 14:00開演 
場 所
文化パルク城陽 西館2階 ふれあいホール
主 催
(公財)城陽市民余暇活動センター、京都府

京都府内でも新型コロナウィルスの感染者が出続ける12月のなかばに、『もうひとつの城陽コーラルフェスタ ~共存…side-by-side~』は開催された。

このコロナ禍において、合唱はもっとも困難を強いられた活動形態のひとつである。「多人数が集まって大きな声を出す」という合唱活動の根本が、飛沫感染のリスクが高いとされているからだ。これに対応して今回のコンサートでも、歌唱者は合唱用のマスクを着用。曲間MCも影アナを中心に観客の前での発話は最小限。3~10人の歌唱がプログラムのほとんどを占め、多人数の歌唱はできるだけ避ける等、感染拡大防止に細心の注意を払って実施された。そんな状況ながら、観客は出演者の家族や友人、また特に高齢の方も多く、こんなに多世代が居合わせる場に来たのはいつぶりかと感じ入ってしまうほどの盛況ぶりだった。

今回のプログラムは、「歌い継ぎたい日本の四季」という小題のもと、春夏秋冬の日本の唱歌を中心に展開された。子どもたちによるちょっとした楽器の演奏や、かわいらしい振り付け等のアクセントも交えつつ、慣れ親しんだ叙情によって、観客を四季折々の歌の世界に誘うものであった。

昨年度のコンサートでは、現代合唱曲やポップスから、スコットランド民謡、フォーレやヴィヴァルディ、ベートーヴェンの第九に至るまでを原語で歌いこなし、高度なハーモニーを披露していた城陽市少年少女合唱団だが、この印象に比較するとかなり素朴なプログラムであるように見える。

当日配布のプログラム

現下状況において、今回の選曲はいくつかのメリットがある。これらの楽曲は耳馴染みある短い曲が中心で、また唱歌自体が多くのひとに歌われる前提で作曲されているため、技術面で比較的歌いやすいものが多い。長時間の練習に感染リスクが懸念されるなかで、限られた時間でイメージを共有し、ハーモニーを醸成するのに適している。

また、マスクをつけての合唱はどうしても発音の明瞭さに課題が残る。歌唱者の口元が見えないことも相まって、歌詞の聞き取れなさが観客にはストレスになる。しかしこれは、「誰もが知っている曲」が歌われる際にはある程度解消される。すべての言葉をはっきり聞き取ることができなくとも、メロディーから歌詞を想起し、ともに「心の中で歌う」ことでその詞を味わうことができるからだ。

字幕等で補う方法も考えられるが、歌唱のあいだの文字情報をできるだけ省いた企画者の態度からは、その場で生まれるハーモニーと、心のなかに浮かぶ風景に耳を傾けてもらえればという心配りが感じられる。実際、ときに目を瞑り、シンプルで美しい歌曲の世界に浸っている観客らの様子も垣間見られた。

演奏会の冒頭と最後には、『とつぜんコロナ』『う・た・え・る』というふたつの書き下ろし曲が披露された。これらは城陽市少年少女合唱団の作詞と、指導者の北澤さん(『う・た・え・る』作曲、『とつぜんコロナ』編曲)、小学五年生の立石鈴さん(『とつぜんコロナ』作曲)によって、新型コロナウィルス感染症流行下に制作された楽曲である。

『とつぜんコロナ』は、3~4人ずつに分かれて撮影・編集された、いわゆる「リモート合唱」と、ジャズギター(作曲者の父の立石克己さん)との共演による楽曲である。「旅行にいけない」「父さんテレワーク」「Youtube毎日みている」など、コロナ禍の生活の鬱憤や家庭内の素朴な戸惑いが、おぼこいスウィングに乗ってユーモラスに歌われ、笑いを誘う。

最後に披露された『う・た・え・る』は、緊急事態宣言解除後の喜びを明るく歌い上げた曲である。この曲においても、ヴィオラ伴奏、城陽フレッシュグリー、城陽高校合唱部は生演奏だが、城陽市少年少女合唱団のメンバーは収録映像によるリモート合唱で参加する。先程まではその壇上でともに歌っていたにもかかわらず、である。

一義的には、これは同時に歌唱する人数を減らすための措置だが、こうした上演状態こそが、現下における子どもたちと高齢者との「社会的な距離」の生々しい表現とも見て取れ、穏やかで明るいメロディーとは裏腹に、なんともいえない苦さが残る。

『とつぜんコロナ』楽譜冒頭部分
『う・た・え・る』楽譜冒頭部分
『う・た・え・る』演奏の様子

『とつぜんコロナ』の前には、短いドキュメンタリー映像が流された。そこには、緊急事態宣言明けのようやく再開できた練習や、不慣れな作曲の様子が記録されている。数カ月ぶりにスタジオに集まったのに、歌うことは控えリズム練習に終始するなど、徹底した対策の様子。やがてコンサートが決まり、北澤さんの「数十年後、みんなが大きくなってから、子どもたちに『大変だったけど、お父さんお母さんはこうやって乗り越えたんだよ』と伝えられるよう、歌をつくろう」という呼びかけから、日々の素朴な気持ちや歌詞の案、作曲のアイディアを持ち寄って、「うた」の活動を続けようとする姿が映し出される。

テレビやインターネットで映像コンテンツに慣れきった私たちの目には、映像収録や編集、生演奏とのアンサンブルが拙く映る部分もある。しかし、それ以上に強く印象に残るのは、突然活動の制限に追い込まれた彼ら彼女らが、ありものを持ち寄り表現するブリコラージュの精神を発揮する姿であった。

こうして作曲されたふたつの現代曲と、四季折々の歌が並べて歌われたとき、観客はあらためて、今年が新型コロナとともに過ごした一年であったこと、また様々なメディアを通じてもたらされる情報や「あたらしい生活様式」の実践とともに、この特異な状況がいつしか風景のように染み込んでしまっていたことを実感することになった。

同時に、馴染み深い唱歌のなかには、今はみられなくなった風景や、歌の中でしか知らない風物が織り込まれていることにも、改めて気付かされる。つまり、「うた」とはそれ自体がアーカイブの機能を持っており、時代ごとの風景を手渡していくことができる、共有の財産でもあるのだ。

これらを省みれば、この2020年という特殊な一年の経験から、わたしたちはなにを歌い継ぐことができるのか、考えずにはいられない。今回生まれた楽曲において、城陽市少年少女合唱団らが選び取った言葉がどんなものだったか。耳をすましてみると、そこにあるのは励ましや慰めの言葉だけではなく、事態に翻弄されることへの困惑や、時にはだらしなく、苛立ったりもしてしまう大人たちの姿、社会のなかでの自分たちの無力さ、なにより歌える喜びの発露であったことを、私たちは心に留めておく必要があるだろう。

もうひとつ、このプログラムによって気付かされるのは、彼ら彼女らの高度な歌唱技術が、日々の練習のうえに成り立っていたということだ。これまで当たり前に思われていた日々の練習が「みんなと集まって、歌える」という小さな奇跡の積み重ねであり、コロナ禍において脅かされたことによって、その貴重さが再発見されたということでもある。

この再発見のきらめきは、こんな状況でも美しいハーモニーを求める彼ら彼女らの凛とした姿勢を通じて、この社会への歌いかけとしても響いてくる。うたは、単に一時的な自己表現や、辛苦の時勢における単なる慰めのための道具として生まれるのではなく、日々のちょっとした感動とそれを表現する実践、そして、音や言葉、人々の関係の積み重ねの結果的な表出なのだ。そしておそらく、彼ら彼女らはこの特異な活動の時間を通じて、これまでとはまた異なる「うた」の経験を積み上げることとなったのだろう。
 まだ若い彼ら彼女らにとって、現下状況における「学び」は、望ましいものではなかったかもしれない。それでもこの経験は、これから無数の困難に向き合っていくための大きな蓄積になることだろう。また、年齢を越えた面々との共演、特にシルバー世代である城陽フレッシュグリーの等身大で端正なハーモニーは、いくつになっても集まり歌うことができるのだという、生きた教えとして響いたに違いない。 このコンサートは少年少女や学生、高齢者らの多世代が「共存」することをテーマに企画されていたが、言わずもがな新型コロナや感染拡大防止の取り組みと、「歌うこと」との共存の側面も強く感じさせるものでもあった。
 複雑な社会と隣り合うなかで、自らを変えつつも、力強くしなやかに表現を積み重ね続けていくこと。そしてそのときに「誰かとともに歌えるうた」があることの社会的な意義をも感じさせる、稀有な学びと、複雑で、しかし素朴な美しさにあふれたコンサートだった。

文化パルク城陽主催公演
令和2年度 京都府「文化を未来に伝える次世代育み事業」(地域文化施設プロジェクト)
『もうひとつの城陽コーラルフェスタ ~共存…side-by-side』

日時 令和2年12月13日(日) 13:30開場 14:00開演 
入場無料(要事前配布の入場整理券)
会場 文化パルク城陽 西館2階 ふれあいホール 

<出演>
城陽市少年少女合唱団と仲間たち(公募)
城陽高等学校合唱部
JFG(城陽フレッシュグリー)
ほか

指 導:北澤 雅恵、西村昭夫、紺谷 貴
ピアノ:桂とも子

主催 (公財)城陽市民余暇活動センター、京都府
後援 城陽市、城陽市教育委員会、城陽市文化芸術協会


取材、文章:谷竜一 京都府地域アートマネージャー(山城地域担当)

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